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引き継ぎ・教える

「見て覚えて」で育った私たちが、それでも手順を書く理由

四日市のある工場では、部品の良品を見分ける仕事がありました。長年、一人のベテランさんだけがその仕事を担当していました。新しく入った若い人が「どこを見ればいいんですか」と聞きました。返ってくる言葉は、いつも「そのうち分かるよ」だけです。ある日そのベテランさんが体調を崩して休みました。検品ができる人が誰もいなくなり、その日の出荷が丸ごと止まってしまいました。似たような話は、事務所の締め作業や、お店の仕込みでもよく聞きます。

それでも今は、簡単な手順を紙に書き残すと、休んだ日の困りごとが減ります。私たちも、先輩の手元をじっと見て仕事を覚えてきた世代です。でもそれは、一人の新人に何年も付き合える時間があったからこそできたことです。今はどこの会社も忙しく、そんな余裕はなかなかありません。書いておけば、教える側も同じ説明を一から繰り返さずに済みます。新人も何度も聞き直しにくい思いをせずに済みます。やり方は難しくありません。まず、一日のうちでよく繰り返す作業を一つだけ選びます。欲張って全部を書こうとすると、途中で疲れて続きません。次に、その作業をやりながら、口に出した言葉をそのままメモに書き留めます。「ネジは奥から先に締める」のように、動きとその理由をセットで書くのがこつです。最後に、そのメモを新しい人に渡して実際にやってもらいます。抜けていた部分は、その場で書き足していきます。

もちろん、長年の勘やこつを全部紙に書き切ることはできません。体で覚えるしかない部分は、どうしても残ります。書いたメモも、時間がたてば実際のやり方と少しずつずれていきます。それでも書いた分だけ、誰かが休んだ日や辞めた日の困りごとは、確実に減っていきます。

このコラムは、西村利之と山口真が書いています。